バートレット効果

心理学者のバートレットという方が唱えた「記憶の減衰説」というものがあります。

これは、記憶がどのように減っていくのか、どのように減っていくのかを調べたもので、

これをバートレット効果と言います。

 

ただの記憶がどのように減るかを言っているだけであれば、あまり面白くないのですが、

この効果を派生させて考えると、人は本当に面白いと思います。

 

このバートレットという心理学者は、ある実験をしました。

実験参加者に物語を記憶させた後に、一定の保持時間の後に、それを思い出して語って貰うという

再生を繰り返す反復再生法の実験をしました。

 

その結果、物語の再生量は、時間が経てば経つほど、短くなるということが分かり、

これを記憶の減衰説と言ったのです。

 

そして、ここからが面白いのですが、記憶の減衰にはある特徴がありました。

1、物語の細部や、記憶した人に馴染みの薄い事柄は省略される。

2、つじつまの合わない事柄は、情報が加えられ合理的な内容に変わっている。

3、物語のある部分が強調されて、中心的になる。

4、馴染みの薄い言葉は、馴染みのある言葉に置き換えられる

5、出来事の順序が、つじつまが合うように入れ替わる

6、実験参加者の態度や情動が、再生に影響する。

というものです。

 

少し説明すると、例えば塔の上のラプンツェルという物語があったとします。

ディズニー映画にもなりましたが、白雪姫やシンデレラほど有名ではありません。

この内容を一度だけ男性に読んでもらい、しばらくあけてどんな内容かを質問すると、

 

1に関しては、塔の上ということは覚えていても、どんな花が咲いているのか、

塔の中の暮らしは覚えていなかったりします。

2に関しては、塔の中の生活が分からないので、誰かがご飯を差し入れにくるなど、

生活ができるように書き加えたりしていきます。

3に関しては、この男性が最も興味がある部分が強調されるので、

お姫様が脱出シーンが強調して語られ、付き添っている動物の事は語られず、

独力で戦うお姫様のように語られます。

4に関して、ムクドリなどのあまり知らない名前は、全て鳥という馴染みのある言葉に

置き換えられて語られます。

5に関しては、脱出して、お城に向かうという流れになりますが、

途中で盗賊たちと出会ったりするシーンは、順番が入れ替わり、この方にとって最も合理的と思う

流れに変化されます。

6に関しては、面白いと思って聞いていると再生量が多く、白雪姫とかと一緒だろうと思って聞いていると

王子様が助ける話が多くなります。

 

こんな風に、記憶の再生が変化していくのです。

ここで面白いのは、人の記憶は本当にあいまいで感情や生活環境に影響を受け、

自分が合理的と思う内容にどんどんと変化していくということです。

 

例えば、事故を起こしたとしても、自分は安全運転で事故なんて起こすわけがないと思う人は、

相手が急に飛び出してきたという風に記憶が変化していきます。

 

自分の子供時代は素晴らしかったと思うと、自分の記憶は美化され、

変ないたずらをしていたことは合理的ではないと記憶から無くなっていき、

全く違う、自分が活躍する記憶に少しずつ変わっていくのです。

 

人は本当にあいまいで、いい加減で、面白いと思います。

その為、過去の苦しい記憶で苦しんでいる方も、もしかしたら本当の記憶を苦しい記憶に

変化させてしまっているのかもしれません。

 

それであれば、昔の記憶はきっと変化した記憶で、

あれはきっと夢か幻だと思っても良いのではないでしょうか。

 

そんな風に相談に来る方を励ましたいと思う今日この頃です。